2017-08

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しっぽのふたりと雪の町

さあつぎはどこへいこう。

しっぽをゆらゆらふたり旅。
ほそい吊り橋をぶらぶら渡って、見えてきたのはたくさんの煙突から立ち上る幾筋もの白い煙。
「今日の宿はあそこかな」と茶色の耳としっぽの方が言い、
「そうさね、丁度日も傾いてきた」と白い耳としっぽの方が言った。
ああ寒い寒い。
宿はだいたいどの町も中心街のちょっと手前にある。
町へ入って中心へ向かうと人が少し増えてきてほんのりあたたかくなってくる。
「ああ、あったね」
「ここでいいね、部屋はあるかな」
「あるさ」
カロンカロンとベルを鳴らしながらドアをくぐると、あったかい空気につつまれた。
たまりませんなあ。
「おや、めずらしい、旅の方ですか」
「ええ、ご主人。寝床のふたつある部屋は空いていますか」
「かしこまりました。今日はとくに冷えますから中の方の部屋をご用意いたしましょうね」
ありがたやありがたや。
上の階へあがってもあたたかい。
ここはどうやらとても良い宿だ。
「毛布が足りなかったら言ってくださいね」
「ありがとうご主人」
「ありがとう」

「さあ、荷を解いて食事に向かおうか」
「その前に路銀を確保しよう」
「ああ、それなら一番かさばるあれを売っちまおう」
ふたつの鞄から取り出したのは、綿の谷で集めた綿鶏の羽をどっさりつめた袋がそれぞれひとつずつ。
この雪の国ならきっと良い値段で売れるだろう。
「少し残すかい?」
「そうさね、少し取っておいて羽飾りやペンを作ってまた売ろうか」
「それも好いね」


「それならきっと寝床職人のところが欲しがりますよ」
再び上着と帽子を着込んで宿のご主人から聞いた店へ。
カロンカロン。
「こいつは良いね、何より軽い」と、寝床職人の親方。
「良いだろう?しかも鞄の底に詰めてたってのにこんなにふんわりだ」
綿鶏の羽はふんわりしているが、とても丈夫な良い羽だ。
「もっと取って来れないのかい?」
「おれたち旅の途中なんだ。もし良ければルートに加えてくれそうなハンターか商人に話をつけるよ」
「きみたちの儲け話にならないじゃないか」
「すてきなものを見つけて好きに楽しむのが仕事なのさ」
「銀貨はあんまりたくさん持つと重いからなあ」
寝床職人の親方はひとしきり大笑いすると
「食事に行くなら隣の通りの食堂へ行きな。俺のツケで食わしてやるよ」
さあ、これが羽2袋分の代金だ、と言って丈夫な布の袋にたっぷり入った銀貨を渡し
「これ以上銀貨を入れると重いからな、紹介のお礼はこれでどうだい」
と言って、軽くて暖かい上等な外套をふたりにそれぞれ被せてやった。
茶色の耳の方には緑のを、白い耳の方には青いのを。
それはふたりにとてもよく似合った。

「良いものを貰ったな」
「ああ、こいつはとても良い」
「何より軽い」
「これなら旅の邪魔にならない」
しっぽをごきげんにゆらしながら隣の通りの食堂へ。
カロンカロン。
「やあ、とても繁盛しているな」
「期待出来そうだな」
所狭しと並べられたテーブルと椅子、それに座った人々をよけて
奥の小さな席に空きを見つけた。
「おや、旅の人たちかい」
「こんな雪の深い町まで来るのは珍しいねえ」
と、隣の席の旦那方。
「旦那たちはここらの人かい」
「そうさ、一仕事終えてあったまりに来たんだ」
「鶏肉のミルク煮込みと野菜のスープがうまいぞ。おおい奥さん、注文だ!」
「あとパンが欲しいな」
「芋のパンがあまくてうまいぞ」
「ならそれだ」
ふたり分の料理を頼んで、食堂の奥さんが注文伺いと同時に運んできてくれたあたたかい茶で一息ついた。
「なあ、旦那方、このあたりに商人かハンターは来てないかな」
「ん?そんならそっちの席の兄さんたちがハンターと商人のコンビだ」
「呼んだかい?」と、逆側の隣席から声がかかる。
話の早い町だなあ、と白い方がしみじみするのをよそに茶色の方がにこにこと話し始めた。
「兄さんたち、綿の谷は知ってるかい」
「綿の谷?ここより遥か南の方にいくつかあるって聞いたことはあるが」
「いや、この近くのだ」
「この近く?」
「うん、おれたち数日前に見つけて寄ったんだがね」
しっぽのふたりとハンターの兄さんと商人の兄さんと旦那さんたちは運ばれて来た料理を楽しみながら
そこそこに夜が更けるまでわいわい話した。


「ああ、あったまった」
「ああ、腹いっぱいだ」
しあわせだ。
宿の部屋で毛布にくるまって、しっぽのふたりは寝床に転がる。
「話がついて良かったな」
「ああ、彼らが丁度ここいらで新しいラインを検討しているところだったのは驚いたけど」
「これで一件落着だ」
「ああ、すっきりだ」
さあ、次はどこへ向かおうか。
「やっぱり、さっき聞いた東のあれかな」
「だな」
「うん星の」
「星の大高原」
「また“うわさ”って程度の情報だけど」
「でもきっとあるな」
「あるだろな」
「どんな感じかな」
「星がよく見えるとか?」
「それも良いけど、星がいっぱい落ちてたらおもしろそうだな」
「それ良いなあ」

しっぽのふたりは嘘みたいなうわさや架空の物語を追って旅をする。
「みんなが知ってるけれど誰も見たことがないものを見つけるにはこれがいちばん」
「けっこう実在してるしね」
「意外な真相もあったりしてね」
「そうそう」


「すてきなものを見つけて好きに楽しむのが仕事だからね」
「雲をがっしり掴むみたいな夢のような仕事さね」


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諦めるぼくたち

「いいねえ」
見渡す限り草の海。
緩やかな傾斜と、その果てに見えるのは空と雲。
まるで天国だ。
自宅から徒歩5分以内にこんな場所が欲しいもんだ。
「どこがだよ。こんな何もないだだっ広い空間、退屈で死にそうだ。」
青!緑!白!以上3色!
脳細胞死滅するわ!
「それでも連れて来てくれたんだ?」
「たまには車乗らないと運転忘れるし…」
答えになってないよ。
拗ねた顔が小さい頃とまるで変わっていない。
「疲れた。昼寝する…」
年の離れたこの弟はぶっきらぼうではあるけれど、その実とても心配性で優しい良い子だ。
最近仕事が忙しく、私事でもごたついていた僕を心配したのだろう。
数歩下って眼下を眺める。
風に吹き上げられて上着が捲れる。
良い日和だ。


年の離れた兄は、昔から優しくて、優しくて、ただただ優しい人間だった。
ほとんど全てに裏切られ尽くしているというのに今も尚、ただ優しい。
一体何がどうなってそうなったのか、知らない。
きっと元々優しいのもそうだけど、ここまで来るといっそ異常だ。
優しい兄のことを嫌いになりようがなかった。
兄を裏切るもの全てに腹が立つ。
「弁当でも持ってくればよかったな」
振り返った兄の顔色は未だ白い。
背後の景色に溶けてしまいそう。
「遠足かよ」


現状ほとんど全てに裏切られ尽くしているらしい僕だが
どうにも昔から鈍感で、あまり堪えないのだ。
きっと期待をしていないからだろう。
愛情には愛情で応えるが、それが永遠のものだとは思えない。
およそ人に対して信頼と言うものを寄せられないのだ。
ちょっと壊れているのだろう。
その点は僕よりもこの弟の方が豊かだ。
感情の色合いが手に取るようにわかる。
昔からどうにも憎めないやつなのだ。
「おやつならちょっとだけ持ってきたけど」
ほら、憎めない。


「遠足かよ」
兄がちょっとだけ笑った。
いつも笑っているような顔をしているけど、久しぶりにちゃんと自然に笑みをこぼした。
それだけで少し安心した。
安定感があるのは見た目だけだと言うことを知っている。
こだわりがないように見えて、その実、好き嫌いが激しいのも。
こだわりが強すぎて欲しいものが手に入らないことが多いあまり諦めてしまってるんだってことも。
ばればれなんだよ。
ポケットから小さな紙の箱を取り出して兄へ投げた。

「わ」
受け取ったそれは、甘酸っぱいグミの菓子の箱だった。
僕はこれが好きだ。食感も酸味も色も箱のサイズも完璧だから。
ああ、まったく。
本当に、まったく。
僕は弟だけは憎めない。

器用そうでいて、その実自分よりも遥かに不器用なんじゃないかと兄に対して思ったのは結構前だったりする。
自分もこてんこてんに甘やかされてきておいてなんだが、兄は周囲を甘やかしすぎるのだ。
だからみんなしてどんどん兄に望む。いろいろと、たくさん。過ぎたものを。
いつもごたつく兄を見ていて、ふと気づいてしまった。
それって、本当に愛情入ってるのか?

「全部捨ててしまったら良い」
突然の投げかけにも、きっと同じようなことを考えていたのだろう兄は疑問を投げ返すでもなくただ曖昧に笑う。
「愛情は減るんだ」
あんた、きっと自分に振り分けるのをいつからか忘れているだろう。
多分結構前から。



「来週また来たいな」
兄の珍しい直接的なおねだりに、少々びっくりした。
「弁当作ってくれるんなら良いけど…別に…」
はいはい、とやっぱり笑う兄に、こちらが覚えるのはもはや諦念ぐらいしかないのだった。



ワールドヒットチャート


これを不毛と言う。

反芻するように、ずっと腹の中に収めてきた怒りを戻して咀嚼する。
手の平に爪痕がつく。
ああ、腹立たしい。そして馬鹿馬鹿しい。
いつまでも囚われて、怒り続けているんだ僕は。
愛しているのは確か。
でも何故だろうね、時々ふとスイッチが入って憎たらしくてたまらなくなる。
これはどうやったら腹の中から外へ出して下水へ流してしまえるのだろう。
うまくちゃんと大人になれなかった僕たちは、理性だけでこの世界への市民権を得ている。
タガを外したら、追放される。
だからまた呑み込む。
咀嚼しては呑み込む。
幸せになれる気なんて全然しない。
でも愛しているのは確か。
だってこんなにも執着している。
復讐は為されない。

そして君は歌う。

構ってほしいだけなんでしょう。
忘れないでいてほしいだけなのよ。
自分と同じように、執着してほしいのね。
でも残念、私は幸せを選ぶ。
そう全てこれから。
大丈夫、私の未来は明るいわ!
愛をありがとう!さようなら!


愛した君が幸せになるのなら、それでいい。
今まで愛をありがとう。
君が選ぶ人なら、間違いないさ。
いくつかの失敗を立派に経験値へと昇華して、上流階級の市民権を得るだろう。
幸せになってください。
ええ、おかまいなく。



トカゲだ。
シッポを切ったら、落ちたシッポを僕らみたいに大切にホルマリンに漬けて保管したりなんか絶対にしないんだ。
そうさ、所詮僕らなんて切れたシッポ。
忘れられて当然なのさ。
朽ちていくのを待つだけ。


だったらせめてしょっぱい酒の肴にして
落ちたシッポの数だけ歌ってやる。
そんで、世界中のトカゲ達のお涙を頂戴しよう。
富を得て上流階級へ返り咲きだ。



しょっぱい涙で満たされた僕のこのちっぽけな地平は枯れるのが運命。
まさに不毛。
自嘲を渋みへと昇華して僕らはオジサンになっていく。

死神



僕はいつだって君たちと共に死にたかった。


僕はもう、かれこれ何年生きているだろうね。
少なくともこの街の人々の人数よりも多く、もしかしたらこの街の人々の指の総数よりも多い。
終わりが無いと悟ったときから、僕は数えるのをやめてしまったよ。
けれどちゃんと数えておけば良かったな。
君が吃驚した後に笑う時の顔や声がどうにも好きなのだ。
ちゃんと数を覚えていたらきっと、それが見れたのに。

「ねえ、おはなしして」
君は眠る前に必ずそうやってねだるけれど、僕はたくさん物語を知っているから困ることはない。
きっとこの国の人々の足の本数よりたくさん知っているよ。
「じゃあ、きのこの精の話をしよう」
「きのこの精?」
くすくすと布団に隠れた口元が笑う。
「きのこの精はね、とってもかわいいやつととっても怖いやつがいるんだ」
「この街にもいるかしら?」
「公園の林の中にならたまにいるんじゃないかな。雨の次の朝が出会いやすい」

そうして次の雨の日のその次の朝を楽しみに眠った君の前髪にキスをする。

僕はきっと何をどうやっても永遠に死ねないのだけど、飽きることなんてなかった。
大好きな何かに出会っても、ずっと手を離さないでいられたことなんて1度もなくて
僕以外の全てに平等にやってくる終わりというものに、
ひどく腹を立てて癇癪を起こしたりしてた頃もあったけれど、
しばらくしたらまた僕は懲りずに何かを好きになってしまうのだ。
愛おしい日々はいつだってあっと言う間だった。

丘の教会のシスターだったターシャ
郵便配達のサント
古道具店の六太じいさん
南の国で隣人だったイアン
黒い森で出会ったサラ
はぐれ牧羊犬のヘンリー
科学捜査官のワット
それから
リリィ、金田、ピアズ、トリコラ、加奈子、ハル、ホクナ、
ネネ、マロウ、シャオ、タチアナ、リッキー、メク、トトキア、コリンズ兄弟、
トリー先生、ネロ、ロビン、
ずっと一緒に居られたら良かったのに
僕の大好きな人達はやっぱり神様も好きみたいで、いつもすぐに呼ばれてしまう。
まだ話していない物語が沢山あったのに。
聞いていない物語も。

きっと
とても早く過ぎ去ってしまうことだろう。
私にとって、特に君は。

出来るだけ長く一緒に居たいばかりに、僕はいつだって彼らの終わりを引き延ばした。
気付かれないようにそっと、あちこちにぽっかりと空いた穴から彼らを遠ざけて来た。
それでもやっぱり終わりが来るのだ。


僕は死なないけれど、沢山の死を知っているよ。
きっと僕の年齢よりも沢山知っているよ。


「あたしも死なないで、あなたとずっと一緒にいるにはどうしたらいいかしら」
眠る前の彼女の前髪を撫でる。
この子のおでこの形、小さい頃から変わらず丸くて好きなんだ。
「あなたはなぜ死なないの?」
いつもの様に額にキスをする。
「神様に嫌われてるんだ」
すっかり大人になったのに、君は全然変わらない。
「ならあたしも神様に嫌われなくちゃ」
布団で口元を隠してクスクス笑う。
ああ、何て愛しいのだろう。

「残念ながら、僕と神様は好みのタイプが同じなんだ」

君と死にたい。


drop

ぽつり、ぽつりと、こぼすみたいに話す声が気になった。
邪魔そうにしながらも決してかき上げようとしない前髪が気になった。
抱えた膝の小ささが気になった。

手を繋いでみたら、汗ばんでいた。
こんなに寒いのに。

高いところへのぼったって自由が減るだけだよ、と言った。
悲しむ僕にぽつりと。
君にそんなことを言われたくないと言ったら黙り込んだ。
翻るコートの裾から覗くジーンズのお尻が寒そうだった。
繋いだ手と手は温かくならなかった。


乾いた音をたてるススキの野の中を、見晴らしのいいところまで行って手を離した。
草の間に座り込んだ肩が寒そうだった。
そらすように遠くに目を向けた。

悲しいことを掻き集めては嘆く僕を、
ただ見つめるその目が怖かった。
そらすかわりに抱き寄せた。
ばかね、と君が言う。
ぽつり、とこぼすみたいに。
吐く息が白くならないのは、きっとこの身を切る風よりも冷えてしまったからだろう。


暖められなかったからだろうか、
あの子はもう居ない。
だから僕は世界中の悲しみと冷たい膝を抱えて
眠ることにした。



ずっと底へ沈んで居ようか。
君が落ちてきても、受け止められるだろう。
そしたらきっとあの声でまた、ぽつりと言うのだろう
ばかね、って。

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