2007-10

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ホワイト

ぐにゃぐにゃに曲げられて、たわんでしまった金網に体を預けてそのまま座り込んだ。
絶妙にフィットして居心地が良い。
眠ってしまおうか。
ミルクティーの缶はまだ熱くて、冷えきった手の平をやけどしそうで
無理矢理伸ばしたセーターの袖越しに暖を取る。
こうして缶の熱が手に馴染んだ頃にはもうぬるくなってしまっているのだ。
熱い内に飲んで体内から暖めてしまった方が効率が良いのはわかっているけど
いつもこうして長い間缶を抱いてしまう。
背中から風が吹き抜ける。
寒い。
だけどこの地面の固さや、息の白さや、裸の枝の薄情な感じがとても好きで
ついこうやって全身が凍え切るまで居座ってしまう。
「何やってるんだ、とっとと帰るぞ」
いつもと同じタイミングの背後からの声に振り向いた。
いつもと同じように白髪の若い男が立っている。
白髪と若い顔が見事にミスマッチ。
服装もミスマッチ...モッズコートに下駄は無いだろ。
「じいさん、今日の飯は何だ」
「誰がじいさんだ」
「続柄は実の祖父なんだから良いだろ」
「よせ、老けるから」
老けてみせろってんだ。
「で、飯は」
「シチューが良いな」
「希望かよ」
「今日は作る気がしない、お前作れ」
皺ひとつ無い顔で年寄りくさい笑み。
「じーちゃん、その内おれ、じーちゃんより老けるのかな」
「血筋かも知れんぞ」
「本当に?」
「ほらおれと同じ年頃の親戚、行方不明が多いだろう。どっかでおれみたいに年も食わずに生きとる可能性の方が高いかも知れん」
「つっても戦時のことだろ?」
「おれはこの通りだ。生き証人ってやつ」
ほら帰るぞ、立て。
差し出された手を掴んだら、立たされたついでに持っていたミルクティーを奪われた。
「ぬるい」
「買い物して帰ろう」
奪われると同時に奪った煙草を吸いながら材料を考える。
じゃがいもにんじんたまねぎ鶏肉。
「クリームシチュー」
「そう、クリームシチュー」
煙を吐いたら白い息と混じって濃く広がった。

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17時

 もちろんおれは人間で、皆と同じようにこの世界の住人で、去年神奈川から大阪へ移ってきて、今は吹田市に住んでいる。
 昔の素晴らしき栄華の象徴であっただろう万博記念公園は今じゃもう立派な廃墟。
希望の象徴であっただろうはずの太陽の塔は、廃園になる大分前から改修工事を停止されていて、
中の鉄骨が劣化して落ちてきたら大変、ということで大きく気持ち良さげに広げていた両腕も今はもうない。くすんで光も返さなくなった金色の顔が不気味に辺りの緑地を臨んでいる。公園管理はとっくの昔に国からも誰からも放棄されていて、荒れ放題。
 ちなみにおれが今向かっているのはその公園内にある”元・バラ園”。今は荒れて手間のかかるバラなんて花はとうに死滅して、変わりに強い雑草が美しい花を咲かせている。代表格はアザミ、アメリカセンダングサ、オナモミ。もれなくとげとげしているしセンダングサやオナモミの種子は服にくっついてなかなかとれない。アザミのトゲはむき出しの足の甲を傷つける。
 ブーツを履いて来れば良かったかも知れない。だけど出来るだけ急ぎたい。垣根辺りにはヒルガオが群生。今の時間帯ならきっと咲いている。
 おれはぐるぐる螺旋階段を降りた後、住宅地から抜ける急勾配の坂を駆け上がり、道路を渡り、モノレールの駅目がけてまっしぐら。一応はまだ稼働している駅の改札をカードですり抜けて、ホームへ。人っ子ひとり居ないが、一応モノレールは決められたダイヤ通りにやってくる。
 モノレールを使って東口へ向かう。中央ゲートは固く閉鎖されているが東口なら開けっ放しだ。
 
 案の定、東口で降りたのはおれだけだった。


チョコレイト リリィ

ねえ、何でそんなにのんきな顔をして笑っているの。
空はこんなに黒くて赤いのに。
しかも君の目の前にいる僕の背中にはコウモリみたいな黒い羽が生えてるよ。
そうだよ、見たまんまの悪魔だよ。
世界はもうすぐ終わってしまう。

僕は今、多分いつもより怖い顔をしていると思う。
彼女はベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせていた。
本当に全くのんきなものだと思う。
「ねえ、そんな所に立ってないで座ったら」
カーテンの隙間から外の様子を伺っていた僕に、そんなことを言う。
飽きれてつい、また同じ質問を繰り返してしまう。
「何度も聞くけれど、何でそんなにのんきなの?」
空の色を見てご覧よ、外の音を聞いてご覧よ。
昼間だというのにこんなに暗くて静かだ。
「何度だって答えてあげるわ。私が一番怖いのはあなたにさよならを言われる事だけ」
堂々巡りする。
何故って僕は彼女のこれが理解出来ないからだ。
「死ぬより怖い事なんてあるのかい?ましてや君は、か弱い生き物だ」
「ええ、あなたがわかるまでは何度だって繰り返してあげる。私が怖いのはあなたが私に興味を無くしてしまうことだけ」
そうしてまた彼女はにこにこと足をぶらぶらさせる。
「悪魔だよ」
「私はあなたが大好きよ」
そうしてまた僕は混乱する。
彼女を見つめながらまた堂々巡りの会話を反芻する。
意味がわからないよ、だって世界は終わりかけていて君の目の前に居るのは悪魔なのに。
何で怖がらないの。
世界が終わっても僕は生き残って、彼女は多分死んでしまう。
死んでしまうはずの彼女はのんきで、多分確実に生き残る僕はとても焦っている。
「このままだと君は死んでしまうよ」
「死んだらあなたは私を忘れてしまうの?」
僕らは他の生き物よりずっと丈夫で長生きで、記憶の量も半端じゃないけど
どれもこれも時間と共に埋没してしまうことなんかない。
全て覚えているし、すぐに思い出せる。
忘れるもんか。
初めてだ、こんなに混乱させられたのは。
いつだって僕らの方が混乱させる側だったのに。
こんなのは初めて。
「忘れられるものなら忘れたいね、きっと無理だけど」
ああほら、まただ、その笑顔。

何だろう、僕はとても損をしている様な気がする。
時間の流れがとても早く感じる。
終わってしまう、もうすぐ終わってしまう。
僕はとても怖い。
だけど彼女は笑顔で見つめ返してくる。
ねえ、何でそんなにのんきなの。
空はもう真っ黒だよ。
「君はとても残酷だね」
そう思ったから口に出した。
世界はもうすぐ終わってしまうのに。
「悪魔みたいに残酷だ」


クロミ

僕の部屋にはギターがあってパンチングマシーンがあってパソコンがあって
家具の色は大体黒で統一されていて結構格好良くしているんだけど
コンポの上にクロミちゃんのうちわがある。
クロミちゃんというのはサンリオのキャラクターで黒いちょっと意地悪そうな顔をしたウサギだ。
クロミちゃんのうちわの持ち手の下の方に、
ピンク色のハートのプラスチックの石がぶら下がっていて
僕のモノクロな部屋では随分浮いている。
意地悪そうな可愛い顔がちょっと僕に似ているから、と先輩が買ってくれたものだ。
僕は先輩に似ていると思ったけど言わなかった。
言ったら何を言い返されるかわからない。
ほんのたまに、暑い時とか蚊が耳元で鳴って煩い時に使うんだけど
使っているうちに、このキャラクターにも愛着がわいてきた。
最初から変わらずコンポの上に置いている。
普段は存在を忘れている。
だけどとても好きだ。
このクロミちゃんというのはきっと、悪ぶってるんだけど憎みきれなくて、
とても不器用で照れ屋なんだろうな、と想像する。
可愛らしいキャラクターの性格を二十歳をとうに過ぎた野郎が
にやにや想像している様は非常に気持ちが悪いだろうな。
というか痛い、と言われそうだ。
これをくれた先輩とは、会わなくなってから随分と経った。
元気かな。
相変わらず不器用で照れ屋で可愛いんだろうな。
そうやって昔出会った可愛い年上の女の人の事を二十歳をとうに過ぎた野郎が
ぼんやりと思い返している様はどうなんだろうか。
僕は今どんな顔をしているんだろうか。
笑ってる?
それとも少し寂しそう?
相変わらずクロミちゃんはコンポの上に居て、
これからも多分しばらくはコンポの上に居るのだと思う。
今のところ、捨てようという気にはならないし
誰かにあげてしまう気にもならない。
いよいよ親父臭くなって本当に似合わなくなった時までは
きっとコンポの上だ。

とんとんとん

窓を叩く音がして、驚愕してグラスを倒してしまった。
ぼたぼたとデスクから水が垂れた。
固まったまま動けないでいるところへまたとんとんとん。
全身の血流が滞って一気に体温が下がった。
そうっと目の前のカーテンを開けようと手を伸ばす。
恐る恐るって表現はこういう時に使うんだな、と
混乱しすぎた脳がどうでも良いことを考える。
そうっと開けるのも何だか怖いので一気に引いた。
同時にばっと後ずさってしまった。
そこには"誰か"が居ました。
知らないのが居ました。
知らないのが喋りました。
「お前が今の住人か」

あんた誰。
「訪問者だ」
玄関から訪問してくれよ。
「ここだって"出入り口"だ」
ここは窓だ、更に言えば六階だ。

さて、ここでようやくおれは気付いた。
さっきから一言も声に出していないのに会話が成り立っている。
「相性が良いみたいだな」
相性の問題なのか。

良いから入れてくれよ。
「良くねえよ、ていうかもう入ってるし」
なんだなんだ、散らかしやがって。
「関係ねえだろ」
あるんだよ、おれの部屋でもあるんだから。
「どういうことだ」
もともとおれが住んでたんだよ。
「今はおれが住んでるんだよ」
細かいこと言うなよ。
「だいたいそれはいつの話なんだ」
五十年位前かね。
「あんたどう見ても五十以上に見えないどころかおれと同じ位にしか」
細かいこと言うなよ。
「訳分かんねえよ。ていうか今度はお前が声に出してない…」

「本当に相性が良いみたいだな」

その知らないのは窓からひょいと入り込んで勝手にベッドに腰掛けた。
背丈はおれより遥かに高くて体格もそこそこ良い。
おれは小柄でひょろひょろなので羨ましい限りだ。
白いシャツにカーキのアーミーパンツに黒いブーツ。
普通の人間に見えた。
真っ赤な目と灰色の髪と言動の内容以外はおよそ。
「髪なんて年取りゃお前だってこんな色になるだろう」
ベッドの上に置いていた新聞を広げながらそいつが言った。
「"歌姫、行方不明"ね、平和になったもんだな」

「どう見ても年寄りには見えないし、明らかに言動がおかしいんですけど」
とりあえず溢した水を布巾で拭きながら言った。
どうやって六階の窓へ登ったのかとか、不法侵入だとか
色々と気にはなったが細かいことを一々聞いていたらキリが無さそうだ。
というよりも何だかもう面倒臭い。
「言動がおかしく感じるのは若く見えるからだろう」
「若く"見える"ってことは、若くないのか」
「最初から言ってるだろう。少なくともお前さんより五十は年寄りだ」
若く見えるにも程がある。
「まあこの髪は生まれつきなんだが」
さっきと言ってることが食い違ってるじゃねえか。
灰色のご老人は今度は本棚を物色している。
「あ、何勝手に人のアルバム見てんだ」
取り上げた。
ご老人は一瞬奇妙な表情を浮かべて静止した後、
何だか慌てたように隣にあった古いアルバムを広げた。
「…おい」
呼び掛けを見事に無視して見入っている。
不思議に思って覗き込んで見ると、そこには茶色く変色した写真。
写っているのは若かりし頃の、今は亡き祖母だった。
その隣には軍服姿の青年。
思わず顔を上げて灰色の老人を凝視した。
写真と同じ顔が目の前にあった。
「なんだ、おまえ、おれの孫か!」
見目若すぎるご老人はやたら嬉しそうにおれを見つめ返した。

婆さん、爺さんは戦死したって聞いたけど、
これは一体どういうことですか。

「神様の悪戯かね」

本当に色々聞きたいことはあるけれど、まず
「あんた五十年も一体どこほっつき歩いてたんだ」
婆さんの代わりに叱ってやるとしよう。

ストロベリーフィールド

空気を振動させる。
歌っているつもりが、実はがなっているだけなんじゃないだろうかとたまに思う。
音が一つずつほぐれて宴の終幕を告げる。
空間は声援で溢れ返る。
胸がきゅっと締め付けられる様な心地がして私は少し泣きたくなった。

帰り道、黒い猫が少し先を駆け抜けた。
電信柱の影からチカリと二つの目がこちらを伺っている。
つかの間、視線を合わせては見たがすぐに逸らした。
もう見てはいないのに意識だけは黒猫の方へ向かう。
足は電信柱をそのまま通り過ぎようとしていた。
瞬間、気配が変わったような気がして、視線をそちらへ向けてしまった。
真っ黒な男がそこに立っていた。
街灯に照らされた、髪も目も服も真っ黒な男。
吃驚しても良いはずなのに、鼓動は全く乱れなかった。
どうしてだろうと、この状況下にも関わらずそんな疑問が浮かんでしまった。
男は一歩こちらへ近寄った。
距離が縮んで、私は男を見上げる。
目が合った途端に鼓動が変調する。
これは、「歓喜」かしら?
私は多分ずっと待っていた。
この時まで延々と、叫びを歌声に代えて。
そう思った瞬間、男は困った様な顔をしてこう言った。
「私はお前に選択を委ねる」
その選択というものをまだ聞いても居ないのに、間を置く事なく何故だかこう答えていた。
「一緒に連れて行って」

もう二度と迷子にしないでちょうだい。

相変わらず理由もわからないまま、そう思った。


黄昏

オレンジ。
目を開けたら視界一面オレンジ色だった。
寝そべったまま手足を投げ出したまま首を動かしたら後方は藍。
キェー、と鳥が鳴いて姿を確認出来ないまま過ぎ去った。
気持ちの悪い鳴き声だった。
体を起こしたらそこは湿った草原で、緩い傾斜の途中だった。
見下ろしても振り返っても草原。
立ち上がって改めて見渡しても草原。
おれは死んでしまったのかな、と思ったが
草の匂いはリアルで尻の辺りが湿った感じもやたらとリアルだ。
ああ、多分生きている。
とりあえず下る事にした。
足もまともに動いた。
下って行くと、街の様なものが見えて来た。
あと少しで日が完全に隠れるというのに明かりは一つも無い。
ふと、自分の姿を見てみる。
土か何かで汚れたのだろうか、シャツもズボンもまだらに茶色い。
手で触って確認してみると、ザラザラしていた。
腰にはベルト、ベルトには同じ形をした小さなポーチが五つ程ならんでついていた。
ベルトが通っている穴から同じようにしてもう一つ、右足側に銃のホルダーが下がっている。
肝心の銃は、と思って体中を探ってみたら右手につかんでいた。
多分目が覚める前からずっと握ったままだったんだろう。
こつ、と足に固くて軽い感触があった。
固くて黒いブーツが蹴ったのは白い棒だった。
何だろう、と思ったが屈んで確かめて見る気にはならなかった。
ふと、目を上げるとそこいらにそれはあった。
草に隠れて見えなかったがよく見ると、棒だけじゃなくて丸いものもあった。
そうか。
そうか、みんな死んだのだ。
そうか、おれは生きているのだ。
だけど、おかしくないか。
骨だぞ。
骨になっている。
どれだけの時間が経ったのだ。
おれは一体どれだけ目を瞑ったままだったのだ。
答えをくれそうな者は居なかった。
だから足を動かした。
街へ、行ってみよう。

だけど街へ入る少し手前で躊躇した。
人が居ない。
何の気配もしない。
ここがどこなのか、頭に地名は浮かんでこなかったが地図が浮かび上がる。
目の前の通りを入ってすぐそこに、酒場があったはずだ。
酒場の向かいには宿、道をもう少し行けば住宅街で...。
だけど、物音一つしないどころか殆ど崩壊していた。
壊れていただけならまだ良かった。
固い地面のあちこちから草が生えている。
壁には蔦が這っている。
確実にかなりの時間が経っている。
確かにここは、頭の中の地図の場所なのに。
それだけはわかるのに。

突然、凄く寒くなった。
今まで何ともなかったのに、ぶるぶると震える程に寒くなった。
空はすっかり藍色に染まった。
日は沈んだ。
余韻のような薄らとした明るさの中で
見渡せども見渡せども
求めるものは何も見出せなかった。

混乱したまま、酒場の戸を開けると
明るい光と酒や食べ物の匂い、暖かい空気が溢れ出した。

そう期待したかった。

カンカンカン

下駄で鉄板をこれでもかと言う程踏み鳴らし、
ぐるぐると六階分駆け下りるとようやく安定した地面にたどり着いた。
おれはとても急いでいる。
実はこんな実況などしている余裕は無い程急いでいるのだが、
テンパり過ぎて冷静な思考力を失うのはいけない。
だからどんなに支離滅裂であれ、実況を続ける。
思考は言葉を待つ事無くひたすら流動し続けている。
だけどあえて言葉に置き換えることによって、
先へ先へと走ろうとする思考を少しでも自分本来のペースに戻さなくてはいけない。
何が起こっているかって?
期待を込めて言えば、おれの待ち続けた”フィクション”だ。
十一年間待ち続けたリアル。
人間に合わせて表現すると、”異常事態”、”超常現象”。
そうともおれはこの世界の人間じゃない。
この世界と平行して走っている沢山の世界の中のひとつ、”別の世界”の住人だ。



 というのは嘘だ。



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アラスカ

Author:アラスカ

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