2010-07

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Zircon

「笑ってください」

世界最悪と言う冠を乗せた彼は
息子の僕にこう言ったのだ。
最後の日。

血は繋がっていない。
年だって僕よりも下の父。
彼は世界最悪のテロリストだった。
飴玉みたいな小さな爆弾を開発し、
彼が“悪”と見なしたもの全てにプレゼントしたのだ。
爆弾は静かに破裂し、オレンジの熱で近くのものを狭い範囲で焼き尽す。

そうして彼は世界を少しずつ壊していった。
彼としては“正して”いたのだろう。


僕が彼に感謝していることと言ったら、
彼が僕の義父だと言うことを秘匿したこと。
そして母を守ったこと。


「私は彼女を守るためなら何でもする」
彼は弱い母を守るために、実行した。
彼は僕には全てを話した。
彼女にすら口を閉ざしていたことも、全て。
「あなたは私の息子です。私のたった一人の子ども。あの人の腹から産まれた、ただ一人の子」
血など関係ないのです。
産まれた順番すら関係ないのです。
彼女を愛している。
そしてあなたも大切なのです、私の息子。
私はあなたを守りたい。

常に断定で結んでいた彼の言葉は、僕や母の前では曖昧な希望も描いた。
「幸せにしたい。けれど私に出来るのはただ、世界に歯向かい足掻くことだけだ…」
こぼれ落ちそうな何かに蓋をするように、彼は目を閉じて静かに言った。

僕は言った。
「母があなたに望むのは、あなたと共に在るということだけだよ」
その時彼は瞼を開けなかった。
彼は世界を知っていた。
僕も知っていて言った。


最期に彼は微笑んだ。
僕は母の目をそっと塞いで
群衆の中へ潜り込んだ。
嫌がる母の手を取り、
彼が母のために作った楽園へ。


美しい草花で溢れた、明るく深い森の中。
もう誰にも見付かることはない。
誰にも脅かされない。
彼が作った楽園。
けれど母の神様は、そこに居なかった。

あなたは本当に残虐だ。
この楽園はあなたが居ないと完成しない。
平穏と引き替えに、あなたは母の全てを奪ったのだ。

あなたは馬鹿だ。
愛する人を誰ひとり幸せになどして居ない。
優しさと悲しみに満ちた牢獄に
僕らは死ぬまで囚われる。
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