2017-10

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Leucocoryne


細かい雨。
むしろどっさり降ってくれたら良かったのに、風に吹かれたら霧散してしまいしまいそうな弱い雨粒。
この程度なら傘をささずに空を見上げる事も容易い。
こんなにも威力の無い雨なのに、髪からは雫がぽたぽたと滴っていた。
顔を暗い曇天に向けたまま、数分間呼吸するのをうっかり忘れていた僕は酸欠で卒倒した。
ああ人間は皮膚呼吸が出来ない生き物なのだと、どうでも良い事を思いながらブラックアウト。

目が覚めると、知らない場所だった。
目が覚めると、綺麗なお姉さんに膝枕をしてもらっていた。
目が覚めると、今までの事は全て悪い夢だった。
...なんていうことを期待してしまうのは、人間の良心を信じ過ぎているのか、単にテレビや映画や小説の影響なのか。
実際に目を覚ましてみると最初に目に入ったのは夜空で、そこは卒倒する前と同じ場所だった。
日は完全に落ちて、雨は上がっていた。
かなり気温が下がっていたので、体が冷えきっている...かと思いきや何故か腹の辺りが暖かい。
ん、と顔だけ起こして見てみると、猫が一匹腹の上に鎮座していた。
ふむ、下痢の心配はなさそうだ。
猫と目が合った。
「こんなところで眠ったりなんかしたら、風邪引きますぜ」
猫は喋った。
「ああ、有難う」
反射でお礼を言った。
お礼を言われた猫の方が吃驚していた。
「私の言葉が解るんですか」
それを言われて、ようやくこっちも釣られて吃驚した。
「ああ、...あ?うん、解る、あれ?君も僕の言っている事が解るのか」
「ええ、解ります」
僕は地面に転がったまま、猫は腹の上に乗ったまま、互いにぽかんと見つめ合ってから同時に口を動かした。
「変わった猫だな」
「変わった旦那だ」
僕はおかしくてたまらなくなって大笑いした。
ふふふ、あはははは、と笑う度に腹の上の猫が揺れて
「やめてくだせえ、転がり落ちてしまいます」
なんて言うものだから頑張って堪えようとするのだけど、腹の上で僕の笑いと連動して揺れる猫を見ると、余計に止まらなくなってしまった。
「ごめん、...ご、ごめん...有難う...ぶっ...ごめん」
猫は何とか転がり落ちる事を回避して地面に立った。
「急に笑い出したり謝ったり礼を言ったり、本当に変な旦那だ」
僕も何とか笑いを引っ込めてようやく体を起こした。
「君だって本当に変な猫だ」
そう言ったら猫は心外そうな顔を向けたので、また笑いがこみ上げる。
「道ばたに転がっている人間の腹を暖めてやるなんて」
ふふふ、と肩を揺らしてしまう。
「有難う、暖かかった」
すると猫は顔をあっちへ向けて
「いいえ旦那、私も寒かったので暖を取らせてもらってたんですよ」
何だか腹だけじゃなくて全身暖かくなって来た。
笑ったからかな。
笑ったのは久しぶりだ。
僕は立ち上がった。
猫は僕を見上げた。
「寒いんなら、家へ一緒に帰ろう」
地面はもう殆ど乾いていて、自分の倒れていた場所だけが黒いシミになっていた。
体の背中側は湿っていたけれど、家へ帰って風呂に入って着替えたら良い。
猫も拭いてやろう。
互いにさっぱりしたら、何か食べよう。
それから一緒に寝よう。
きっと暖かい。


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