2017-10

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とんとんとん

窓を叩く音がして、驚愕してグラスを倒してしまった。
ぼたぼたとデスクから水が垂れた。
固まったまま動けないでいるところへまたとんとんとん。
全身の血流が滞って一気に体温が下がった。
そうっと目の前のカーテンを開けようと手を伸ばす。
恐る恐るって表現はこういう時に使うんだな、と
混乱しすぎた脳がどうでも良いことを考える。
そうっと開けるのも何だか怖いので一気に引いた。
同時にばっと後ずさってしまった。
そこには"誰か"が居ました。
知らないのが居ました。
知らないのが喋りました。
「お前が今の住人か」

あんた誰。
「訪問者だ」
玄関から訪問してくれよ。
「ここだって"出入り口"だ」
ここは窓だ、更に言えば六階だ。

さて、ここでようやくおれは気付いた。
さっきから一言も声に出していないのに会話が成り立っている。
「相性が良いみたいだな」
相性の問題なのか。

良いから入れてくれよ。
「良くねえよ、ていうかもう入ってるし」
なんだなんだ、散らかしやがって。
「関係ねえだろ」
あるんだよ、おれの部屋でもあるんだから。
「どういうことだ」
もともとおれが住んでたんだよ。
「今はおれが住んでるんだよ」
細かいこと言うなよ。
「だいたいそれはいつの話なんだ」
五十年位前かね。
「あんたどう見ても五十以上に見えないどころかおれと同じ位にしか」
細かいこと言うなよ。
「訳分かんねえよ。ていうか今度はお前が声に出してない…」

「本当に相性が良いみたいだな」

その知らないのは窓からひょいと入り込んで勝手にベッドに腰掛けた。
背丈はおれより遥かに高くて体格もそこそこ良い。
おれは小柄でひょろひょろなので羨ましい限りだ。
白いシャツにカーキのアーミーパンツに黒いブーツ。
普通の人間に見えた。
真っ赤な目と灰色の髪と言動の内容以外はおよそ。
「髪なんて年取りゃお前だってこんな色になるだろう」
ベッドの上に置いていた新聞を広げながらそいつが言った。
「"歌姫、行方不明"ね、平和になったもんだな」

「どう見ても年寄りには見えないし、明らかに言動がおかしいんですけど」
とりあえず溢した水を布巾で拭きながら言った。
どうやって六階の窓へ登ったのかとか、不法侵入だとか
色々と気にはなったが細かいことを一々聞いていたらキリが無さそうだ。
というよりも何だかもう面倒臭い。
「言動がおかしく感じるのは若く見えるからだろう」
「若く"見える"ってことは、若くないのか」
「最初から言ってるだろう。少なくともお前さんより五十は年寄りだ」
若く見えるにも程がある。
「まあこの髪は生まれつきなんだが」
さっきと言ってることが食い違ってるじゃねえか。
灰色のご老人は今度は本棚を物色している。
「あ、何勝手に人のアルバム見てんだ」
取り上げた。
ご老人は一瞬奇妙な表情を浮かべて静止した後、
何だか慌てたように隣にあった古いアルバムを広げた。
「…おい」
呼び掛けを見事に無視して見入っている。
不思議に思って覗き込んで見ると、そこには茶色く変色した写真。
写っているのは若かりし頃の、今は亡き祖母だった。
その隣には軍服姿の青年。
思わず顔を上げて灰色の老人を凝視した。
写真と同じ顔が目の前にあった。
「なんだ、おまえ、おれの孫か!」
見目若すぎるご老人はやたら嬉しそうにおれを見つめ返した。

婆さん、爺さんは戦死したって聞いたけど、
これは一体どういうことですか。

「神様の悪戯かね」

本当に色々聞きたいことはあるけれど、まず
「あんた五十年も一体どこほっつき歩いてたんだ」
婆さんの代わりに叱ってやるとしよう。

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