2017-05

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諦めるぼくたち

「いいねえ」
見渡す限り草の海。
緩やかな傾斜と、その果てに見えるのは空と雲。
まるで天国だ。
自宅から徒歩5分以内にこんな場所が欲しいもんだ。
「どこがだよ。こんな何もないだだっ広い空間、退屈で死にそうだ。」
青!緑!白!以上3色!
脳細胞死滅するわ!
「それでも連れて来てくれたんだ?」
「たまには車乗らないと運転忘れるし…」
答えになってないよ。
拗ねた顔が小さい頃とまるで変わっていない。
「疲れた。昼寝する…」
年の離れたこの弟はぶっきらぼうではあるけれど、その実とても心配性で優しい良い子だ。
最近仕事が忙しく、私事でもごたついていた僕を心配したのだろう。
数歩下って眼下を眺める。
風に吹き上げられて上着が捲れる。
良い日和だ。


年の離れた兄は、昔から優しくて、優しくて、ただただ優しい人間だった。
ほとんど全てに裏切られ尽くしているというのに今も尚、ただ優しい。
一体何がどうなってそうなったのか、知らない。
きっと元々優しいのもそうだけど、ここまで来るといっそ異常だ。
優しい兄のことを嫌いになりようがなかった。
兄を裏切るもの全てに腹が立つ。
「弁当でも持ってくればよかったな」
振り返った兄の顔色は未だ白い。
背後の景色に溶けてしまいそう。
「遠足かよ」


現状ほとんど全てに裏切られ尽くしているらしい僕だが
どうにも昔から鈍感で、あまり堪えないのだ。
きっと期待をしていないからだろう。
愛情には愛情で応えるが、それが永遠のものだとは思えない。
およそ人に対して信頼と言うものを寄せられないのだ。
ちょっと壊れているのだろう。
その点は僕よりもこの弟の方が豊かだ。
感情の色合いが手に取るようにわかる。
昔からどうにも憎めないやつなのだ。
「おやつならちょっとだけ持ってきたけど」
ほら、憎めない。


「遠足かよ」
兄がちょっとだけ笑った。
いつも笑っているような顔をしているけど、久しぶりにちゃんと自然に笑みをこぼした。
それだけで少し安心した。
安定感があるのは見た目だけだと言うことを知っている。
こだわりがないように見えて、その実、好き嫌いが激しいのも。
こだわりが強すぎて欲しいものが手に入らないことが多いあまり諦めてしまってるんだってことも。
ばればれなんだよ。
ポケットから小さな紙の箱を取り出して兄へ投げた。

「わ」
受け取ったそれは、甘酸っぱいグミの菓子の箱だった。
僕はこれが好きだ。食感も酸味も色も箱のサイズも完璧だから。
ああ、まったく。
本当に、まったく。
僕は弟だけは憎めない。

器用そうでいて、その実自分よりも遥かに不器用なんじゃないかと兄に対して思ったのは結構前だったりする。
自分もこてんこてんに甘やかされてきておいてなんだが、兄は周囲を甘やかしすぎるのだ。
だからみんなしてどんどん兄に望む。いろいろと、たくさん。過ぎたものを。
いつもごたつく兄を見ていて、ふと気づいてしまった。
それって、本当に愛情入ってるのか?

「全部捨ててしまったら良い」
突然の投げかけにも、きっと同じようなことを考えていたのだろう兄は疑問を投げ返すでもなくただ曖昧に笑う。
「愛情は減るんだ」
あんた、きっと自分に振り分けるのをいつからか忘れているだろう。
多分結構前から。



「来週また来たいな」
兄の珍しい直接的なおねだりに、少々びっくりした。
「弁当作ってくれるんなら良いけど…別に…」
はいはい、とやっぱり笑う兄に、こちらが覚えるのはもはや諦念ぐらいしかないのだった。



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