2017-10

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アスター

「おお、増える増える...」
「何感動してんだショウコちゃん...ていうか増やし過ぎじゃ...」
今日のメインはワカメのミソスープらしいけど不慣れな手つきがとても恐い。
「具になるのワカメしか無いから」
ああそっか、買い出ししてねえからなあ。
「冷蔵庫、写真のフィルムしか入ってないよ」
ああうん、フィルムを具に選ばなかったのは大した進歩だ。
「なんでそんなのが入ってるの」
「冷暗所に保管した方が良いって聞いたから」
「写真なんて撮ってるところ見たこと無いけど」
「昔ね、少しだけやってたんだ」
ふうん、なんて言いながらショウコちゃんはミソを投入してぐるぐるかき回す。
ダシなんてハイレベルなもんは入ってないんだろうなあ。
「撮った写真、ないの?」
うーん、と僕は濁す。
「何、昔の彼女でも写ってるの」
するどいなー、そういうところだけはするどい。
うー、あー、と更に濁すしかなくなった。
「当たりましたか、大正解ですか。ご褒美に見せなさい」
何故そうなるのだ。
でもね、これは本当なんだけど
「なくした」
「なくした?破り捨てたんじゃなくて?」
破り捨てたりなんて出来るもんか、本当になくした。
どんなに探したかわからない。
というより本当に写ってたのかすらわからない。
「あー」
何やら踏み台に乗ってキッチンの上の棚をかき回していたショウコちゃんが変な声を発した。
「え、なに?」
「いや、写真...」
「え?」
「出てきたんだけど」
「...え?」
「あ」
ショウコちゃんの手元からバラバラとこぼれ落ちた。
白黒やセピアの写真が僕の頭の上から降ってきた。
「20年も探してたのに」
「ウメさんどう多く見積もっても20代後半位にしか見えないよ。笑える冗談言わないで」
いやほんとに笑い事じゃなかったんだ。
あれからどんなに彼女の姿を求めて探しまくったことか。
でもそんなことを口に出したら「未練たらたら」とか言われる。
絶対言われる。
1枚を手に取り、ショウコちゃんが言う。
「すんごい美人...つか彼女コスプレ?」
それはカゲロウの様な薄い透明の羽。
写真に写った彼女の背には羽が生えていた。
すごいね彼女、プロ?と目を輝かせるショウコちゃん。
何のプロだ。
「フェアリーなんだ。20年前ふいっと消えちゃったけど」
「そうなんだー」
あ、信じてねえなこりゃ。
シンクの淵に落ちていた1枚を取り上げて見る。
何だか、不思議な気分だ。
あの嵐の様な悲しみの感情はどこへ行ったんだろう。
少し寂しい。
「何しんみり浸ってんの」
ちょっとむっとした顔でショウコちゃん。
その手は白い陶器のスープ皿にミソスープを注いでいる。
塗の椀があるのに敢えてそのチョイスですか。
「斬新だね、ショウコちゃん」
「いや、ミソ入れすぎたから薄めたら何だか大量になっちゃって」
「箸だと食べにくいな、スプーンでいっか」
その後更に米すら切らしていたことに気付いて、結局朝の残りのバゲットを焼いた。
かなり斬新な食卓になってしまった。

薄めたはずなのにとてもしょっぱかった。
けれど暖かくて体中に染み渡る感じがした。
うまい、と言おうとして顔を上げたらショウコちゃんが一瞬吃驚した顔をした。
「これだからウメキチさんは...」
何故だか僕の顔は涙でずぶ濡れになっていた。
「じじくさいから名前フルで言わないでくれ」
彼女が投げてよこしたティッシュで顔を拭きながら誤魔化す様にして言ってみたが何とも情けない声が出た。
「年取ると涙腺が緩くなるっていうものね」
茶化すように彼女は言うが、割と本当のことなので何の反論も出来なかった。


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