2017-09

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彼岸まで


今の今まで居たあそこが、ああ夢だったのだと気付く。
あんなに必死になっていたのが馬鹿馬鹿しい。
6時。
「おはよう、今日はここで過ごすのかい?」
この声はさっき夢で聞いたもの。


電車の中。
学生が長い休みに入ったからだろうか、ガランとした車内。
それにしても、少なすぎやしないか。
8時。
「まだ君は繰り返すのかね」
放っておけ、と無視をする。
違和感もそのままに。


ガンガンと頭に響く位の大音響で鳴く蝉から少しでも距離を置こうと頭を逆方向へ傾ける。
体ごと移動させるのはまずい。日陰から出てしまう。
濃い影と照り返しで白くすら見えるコンクリの道とのコントラストに目がやられる。
もうずっと足元しか見ていない。
14時。
「一体どこへいくのかね」
目に映る光景に少しもそぐわない涼しげなゆったりとした声音。
無性に苛立つ。


日が暮れてしばらくたったけれど、この時期のこの時間はまだ建物のシルエットが空に映える程度に明るい。
あんなに避けていた光を追うように、西へと急ぐ。
まだ暗くなってはいけない。
確かめなくては。
20時。
「あの建物のようなものは、建物じゃあないんだよ」
見え透いた嘘を。


「なら確かめてみれば良いだろう」
「だから急いでいるんだ」
「君の手で潰せるくらい脆いよ」
「黙れ」
「それに、」
ふと、声の主を見やる。
「そんなに急いで行く程、遠くには無いよ」
風が吹いた。
景色が揺れた。
目的だったあの大きなシルエットは、すぐそこでガサガサと音を立てて揺れた。
薄っぺらな、紙細工。

「おもしろいねえ、君は。どこまでこれを繰り返すんだい。全てをこじつけているのは君なのに」
無意味だ、と吐き捨てるように言われた。
うるさい。
「そろそろいい加減にしたらどうかね、いくら私でもちょっと飽きてきた」
ここに君の欲しいものはないよ。
「じゃあどこに行けばあるんだ。どこまで行けば帰れるんだ」
「君の場合、どこまで行ったって無理だ」
かっとなって、何か怒鳴ろうとするけれど何も言葉が出てこない。

「だって君、帰りたくなんかないくせに」







ああ、夢か。
不安を引きずったまま起き上がる。
「行かないと」




「やれやれ、どこへ行くんだい?」




いつかのだれかからのたより


小さな雨粒が頬にかかって見上げる。
「冬の雲だ」
曖昧な輪郭をそのままに、ゆっくりと空を移動する。
初めて見るはずのものに既視感を覚える、つまりデジャヴというやつが頻繁に起こる僕だが
これはなんだか珍しく見覚えが無かった。
きっと今までに見ているはずなのに。

「世界は2つあって、それぞれの透明度が50パーセントくらいで重なっているのだと思う」
と思う。
「ふとした瞬間に行き来しているのだと思う」
と思う。
「既視感を覚える時、きっと世界を2つ同時に見てしまっているのだと思う」
と思う。
最初は頭がどうかしているのだと思った。
医者に行けばきっと、良くて自律神経がおかしい、悪くて脳に腫瘍があるとか言われるんだと、
そんなことを思っていたけれど、
世界が2つあると考えてしまえば、すとんと腑に落ちるのだ。
痛い人を見る目で、友人が僕との距離を物理的に少し置いた。
一歩下がって笑う男。
「なんていうか、あたまだいじょうぶ?」
冗談として片付けてくれる彼はとても好ましい。
「2つの世界はほとんど一緒で、きっとちょっとだけ違うからデジャヴが起こるんだ」
そう思っていた。

『ここで待つ』
迷い込んだ路地の壁にそう書いてあった。
息をのんで凝視する。
何か知っているような気がして、うつむいて考え込む。
顎に手をやるのは僕の癖だ。
顔を上げてもう一度見ると、
まるで知らない言語で何かがラッカーで雑に書かれているのがあるだけだった。
他にも何か書いてあるだろうかと見回すと右の壁、
『ゆっくり待ってる』
左の壁、
『ゆっくり来い』
もう一度しっかりと読み取ろうとして見ると
やっぱり知らない言語で何かが書いてあるだけだった。
けれど、きっとそう書いてあるのだろう。
誰かが、誰かを待っているのだろう。
それはきっと僕だが、
誰が、何が待っているのかわからない今の僕ではないのだろう。

「ファンタジー本の読みすぎか、映画の観すぎだと思います」
なぜか敬語で笑う男。
「まあそうだろうなあ。普通に考えたらなあ。」
と思う僕。
ふと気付いて、彼をもう一度じっくりと見る。
そこにあるのは見慣れた、痛い人を見る目。
しかし、
ああ、僕は、
彼が誰だか知らない。
僕は彼を初めて見るわけではないのに、彼と会ったことがない。

そうだなあ、
きっとずっと先で会う人なのだろう。


まっくら森

「いいから早く手を伸ばさないか」

黒い森の深く、昼間だというのに薄闇。
夜になると青い霧が立ち込めて、より深くへと誘い込む森。
伸ばされた手を掴むと、少年は強く引き寄せた。
「ああ膝が…タイツに穴が空いている」
少年はハンカチを後ろのポケットから取り出すと彼女の膝に巻いて縛った。
彼らは逃げている。

「おじょうさん、こっちだよ。朝日が見えるのはこっちだよ」
大きなカラスが枝の上から声をかける。
少年は彼女の手を取り、反対方向へ。
「夜明けはこっち、こっち」
白いオウムが枝の上から声をかける。
少年は鬱陶しそうにその方角を避けて進む。
茶色い髪が森の湿気と汗で首に張り付いている。
彼女はただそれを見つめて、手を引かれるまま。

「どうしてこんなところへ入ったりしたんだ」
少年が問う。
「わからないの」
彼女が小さく答える。
「“どうやって”なんて聞いてない。“どうして”と聞いてるんだ」
「…」
彼女は記憶を辿る。
「お父様がお客様を連れてきたの」
少年は彼女を振り返らずに手を引いて進む。
「私のお部屋へ連れて来て言ったの」
茨の茂みを迂回する。
彼女の膝がもっと傷付いてしまうから。
「お客様のお話の相手をしなさいって」
少年は彼女の手をぎゅっと握りなおして少し速度を落とす。
「いつも怖くて、いつも早く朝になあれ、って心の中で唱えるの」
森の湿度は体温を奪う。
こんなにずっと歩いて、息も切れているのに2人の手は冷たい。
「でもいつも私の望む朝は来ないの」
少年が立ち止まる。
彼女の足が止まる。
「だからお祈りしたの」
それでも少年は手を離さない。
少年に握られたまま、彼女の手が祈りの形を作る。
「私にやさしい夜をくださいって」

「わかった」
少年は彼女の手を引いて道を戻り始める。
白いオウムの指す方へ、カラスの飛ぶ方へ。
さっきとは違う速度で、ゆっくりと少年は彼女の手を引く。
大事なものを大事な箱へ収めるように、そっと。
「きみに、あげるよ」
森の闇がゆっくりと深まる。
湿った小さな足音は2人分。
青い霧の奥深く、手燭をひとつ灯して少年が振り返る。
「この森の灯りはこれひとつ」
きみにあげる。
「これを持ってたら獣は寄って来ない」
彼女は受け取らないまま、少年の顔を窺う。
「僕はどうしよう?」
居ない方が良いかな?と、首を少し傾けて彼女を見やる。
突き放すようでいて、誘うみたいに目を細めて
少年は握っていた手の力を抜いた。
彼女は手を離さなかった。


手燭の小さな灯りは闇をより深くする。
辺りの木々すらもう見えない。
少年は彼女の首の匂いをかいだ。
甘い森の匂いがした。


夜が来る。

僕が歩くと夜が来る。

正確に言うと、僕が歩いた後ろは夜なのだ。
振り返ると夜。
前方は日が差し、後方は星が輝く。
この国ではそうなのだ。
不思議な事にこの国だけだが。
科学者曰く、僕はそういう“現象”らしいのだ。
生まれた時のことは覚えていない。
当たり前かな?
ところがそうでも無いんだ。
誰一人、僕が生まれたことを知らなかったんだ。
勝手に生まれて、勝手に育った。
気づいた時にはこの通り、歩いていて夜を連れていた。
大問題さ。
なんせ僕がひとつ所に居続けるとその後ろはずっと夜なんだ。
不用意に方向転換したり、走ったり、ジグザグ歩いたり出来ない。
だって君たち、困るだろう?

試しに国の外へ出てみたら、国はずっと夜のままになった。
旅立つことすらままならない。
「うしろむきにあるいたら?」
牧場の女の子が言った。
試したら僕の進行方向とは逆、つまり見えてる方向が夜に変わっていった。
体の向きは関係ないみたい。
しかたなく僕はずっと歩く。
一定のペースで歩く。
休憩くらいは取るけど、日がな一日歩いてる。
一日って、夜が来るまでって考えたらどんどん時計と違うことになるから、
この国の人は夜や朝じゃなくて時計を見て寝起きする。
僕も時計を持ってる。
王様がくれた、小さい丈夫な時計。
時計の針が一回りしたら僕は眠る。
その辺で寝たり、その辺の人に泊めてもらう。
幸い、この国の人は僕を縁起物扱いしてるから誰も嫌がらない。
僕が泊まると「楽しい良い夢が見れる」んだって。
僕は悪い夢なんて見たことがない。

その日は葬列に出会った。
みんな泣いている。
お葬式なのに僕が来たら、暗くて邪魔になるかなと思って
ゆっくり進む葬列の後ろを、ゆっくりと歩いた。
今日僕の後ろはちょっと夜が長くなりそう。
列が散った後、葬列の前の方に居た人が僕に声をかけた。
「ゆっくり歩いてくれてありがとう。よかったら家で休んでいってくれ」

目が覚めて、また歩くために家の主に挨拶しようとしたら礼を言われた。
泣いて赤くなった目で、でも笑顔でこう言った。
「夢であの人に会えたよ。笑っていた。僕が爺さんになるまで待ってるよと笑ってくれた」
ありがとう、と僕の手を握った。
僕も「泊めてくれてありがとう、またね」と言って
歩き出した。

面倒臭いものに生まれてしまったな、といつも思うけれど
これが僕なので、仕方が無い。
いつか僕も死ぬだろう。
人どころか生き物ですらないかも知れないからわからないけど、多分。
その時はこの国も昔みたいに自然に朝が来て夜が来るようになるだろう。
「僕は一体何なんだろうなあ」なんて
考えるのもやめた。
だってそんなのは学者にだってわからない。
僕は生まれたのだから、きっといつか死ぬ。
生まれたことを知ったときから、それは何となく頭のどこかにある。
それまで僕はただ夜を連れて歩くだけだけど、
きっと君が思うよりも、悪い生き方じゃない。


いつか出会ったら泊めてくれると嬉しい。
星の綺麗な夜を連れて行くよ。


Zircon

「笑ってください」

世界最悪と言う冠を乗せた彼は
息子の僕にこう言ったのだ。
最後の日。

血は繋がっていない。
年だって僕よりも下の父。
彼は世界最悪のテロリストだった。
飴玉みたいな小さな爆弾を開発し、
彼が“悪”と見なしたもの全てにプレゼントしたのだ。
爆弾は静かに破裂し、オレンジの熱で近くのものを狭い範囲で焼き尽す。

そうして彼は世界を少しずつ壊していった。
彼としては“正して”いたのだろう。


僕が彼に感謝していることと言ったら、
彼が僕の義父だと言うことを秘匿したこと。
そして母を守ったこと。


「私は彼女を守るためなら何でもする」
彼は弱い母を守るために、実行した。
彼は僕には全てを話した。
彼女にすら口を閉ざしていたことも、全て。
「あなたは私の息子です。私のたった一人の子ども。あの人の腹から産まれた、ただ一人の子」
血など関係ないのです。
産まれた順番すら関係ないのです。
彼女を愛している。
そしてあなたも大切なのです、私の息子。
私はあなたを守りたい。

常に断定で結んでいた彼の言葉は、僕や母の前では曖昧な希望も描いた。
「幸せにしたい。けれど私に出来るのはただ、世界に歯向かい足掻くことだけだ…」
こぼれ落ちそうな何かに蓋をするように、彼は目を閉じて静かに言った。

僕は言った。
「母があなたに望むのは、あなたと共に在るということだけだよ」
その時彼は瞼を開けなかった。
彼は世界を知っていた。
僕も知っていて言った。


最期に彼は微笑んだ。
僕は母の目をそっと塞いで
群衆の中へ潜り込んだ。
嫌がる母の手を取り、
彼が母のために作った楽園へ。


美しい草花で溢れた、明るく深い森の中。
もう誰にも見付かることはない。
誰にも脅かされない。
彼が作った楽園。
けれど母の神様は、そこに居なかった。

あなたは本当に残虐だ。
この楽園はあなたが居ないと完成しない。
平穏と引き替えに、あなたは母の全てを奪ったのだ。

あなたは馬鹿だ。
愛する人を誰ひとり幸せになどして居ない。
優しさと悲しみに満ちた牢獄に
僕らは死ぬまで囚われる。

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